30代消化器内科医の日記

30代男,仕事は消化器内科医。趣味はゴルフとロードバイクとキャンプ。常習飲酒者。ありふれた30代が好きなように趣味で暮らしている様子。

消化器内科領域の啓蒙活動

せっかくブログ名でも消化器内科医を名乗っているのでたまには啓蒙活動をしておこうと思う.


まず一消化器内科医の意見として,ベストは人間ドックを毎年受けて欲しい.ドックが難しければ胃カメラ(内視鏡)やバリウムの検査,便潜血検査,腹部超音波(エコー検査)の可能な範囲で受けられる健診やかかりつけ医への受診を繰り返しお勧めしたい.


よく最低限の血液検査やレントゲンと問診だけといった簡略化された会社の健診のみの方を見かけるが,上述の検査を見て貰えばわかると思うがそれだけでは全然足りないのが実情だ.


一消化器内科医としてはせめて胃カメラ,便潜血検査を受けていてもらえているかどうか,でその人の人生は変わると思っている.


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全部書くと長いので今回は大腸がん検診について


基本的には大腸の検査は「便潜血検査」「注腸造影検査」「大腸内視鏡検査」に分かれる.もちろん他にも細かい検査はあるかもしれないが一般通念としてはこの三つになる.(注腸造影は自分はやっていないので詳しいことを書けないので省略する)


そのうえで,「大腸がんを検出する能力」としては大腸内視鏡検査が最も優れていることは間違いない.そりゃー内視鏡で直接みに行くのだから当然と言えば当然である.

医師は基本的には断言ができない生き物なので,もちろん「大腸内視鏡をやって癌が見つからなければ絶対大丈夫」とは言えない.「大きな病気は多分ないと思います.小さいポリープはあるかもしれません」といったふわっとした言い方になってしまう.大腸を100%見落としなく観察することは現実的には難しいからだ.


こういう言い方をすると人によっては『大腸の検査大変だって聞くし,そんな大変な思いまでして確実なことが言えないんだったらやらなくても・・・』と感じてしまうようだ.


何度も繰り返すが,大腸内視鏡以上に大腸がんの検出感度が高い検査はない.

なので「大変だけど受ける価値はちゃんとある検査」というのが自分の考えだ.


では全員がいきなり内視鏡を受ければいいかというと,そうすると今度は我々の医療資源的な問題が出てくる.

要するに「マンパワーが足りないのでみんな検査する余裕がない」のである.


そこで「大腸内視鏡を受けるべき人間をふるいにかける検査」というのが便潜血検査なのだ.


便潜血検査のメカニズムは非常に単純で,便が腸管を通過する際に「腸管内に突出した何かしらの病変」や「粘膜の炎症や損傷した領域」と便が擦れることで便表面に見えないレベルの少量の血液が付着して出てくる.これを検出しているのである.


なので便潜血検査が陽性の場合は「腸管内に突出した何かしらの病変」が存在する可能性を示唆しているということになる.

その最たるものが大腸がんというわけだ.


もちろん医療に絶対的な信頼度を持つ検査などなく,大腸がんが見つかる人もいれば痔があるだけの人やもっと言えば何も見つからない人もいる.

しかし何もないことは無駄足だったのではなく「何もないことを証明した」という大きなメリットがある.


含みを持たせた「腸管内に突出した何かしらの病変」というのは癌以外に大腸腺腫というポリープの可能性があるからだ.

大腸腺腫はいくつか種類があるが,共通していることは放置すれば癌化するリスクを持っているということだ.

つまり癌がなくとも大腸腺腫を見つけることは将来的に大腸がんになりうる病変を事前に除去できることと言える.


癌であればもちろん入院での治療を要するし,癌化する前段階のポリープであったとしても大きくなってしまえば治療時に出血や腸管穿孔などのリスクをはらんでしまう.

それはつまり早く治療すれば一日ですむものが,後回しにしてしまうことで時間も費用も多く必要になってしまう可能性があるということと言える.

要はざっくりと言ってしまえば早めに検査して貰えれば患者も,我々治療する側もリスクを減らせてハッピーというわけ.


まとめると,まずは人間ドックでも検診でも近くのクリニックでも良いので,「年一回を目処に便潜血検査を受けましょう」ということをお願いしたい.


残念ながら30代でも40代でも進行癌が見つかる方はいるというのが現実だ.それは胃も大腸ももちろんそれ以外の部位でもいるはずだ.

なので検診という一見時間の無駄なようなことが自分の身体へ目を向けるいい機会であるということをぜひ意識してもらえるとありがたい.

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